3.こわいこと

3.こわいこと

母は女手ひとつでわたしを育てるため、そして日中は宗教活動に勤しむため、夜間の仕事をしていた。毎晩わたしは一人で留守番をしながら寝なくてはならず、まだ7歳くらいのこどもには夜はとてもこわいもので、寂しかったり色んな心配が頭をかけめぐり、安心して眠ることはできなかった。
「火事になりませんように、地震がきませんように、泥棒がきませんように、ゴキブリが出ませんように、お母さんが早く無事に帰ってきますように」ふとんの中で何度もお祈りをした。(大人になってから母にこの話をしたところ「火事もなかったし泥棒もこなかったでしょう?ちゃんと祈りを聞いてくださったじゃない!」という返事が返ってきて、会話が成立しないことを今更ながら悟った。)
母も大変だったとは思う。 ときどき夜中に目が覚めると、仕事から帰ってきた母がカップラーメンを食べていたりしていて、それを見て胸が痛んで仕方なかった。「わたしがいるからこんな大変なことをしている。ひとりでかわいそうなお母さん。ごめんなさい。」
母は毎日朝は寝ているので、ひとりで毎日同じ服に着替えて学校に行った。クサイのがうつる、とのことでクラスメイトからは避けられていたが、事実だっただろうしどうにもできなかったことのひとつだと今は思う。

おしりは毎日ミミズ腫れかアザで痛かったけれど、それより「お母さんも先生もクラスメイトもみんなわたしのことがキライなんだ」ということが一番悲しかった。
わたしにとって『神』は、助けてくれるでもなく、存在すらしていなかった。神より何より、母がいちばんこわい!

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